忘却の船に流れは光 | 1890円 |
著・田中 啓文 | 早川書房 |
かつてデモンの襲来を受け壊滅的打撃を受けたものの、殿堂の指導の下復興を遂げた世界。身体的特徴まで違う徹底的な身分制度と文字通り階層化された世界が、どこか狂い始めます。
そしてその変調をきっかけとする危機に飲み込まれ、いつの間にか中心的人物になる聖職者・ブルー。最初は、聖職者の戒律を守り世界の秩序を維持する殿堂を畏怖していましたが、やがて強まる殿堂への疑問と反逆者との交流でついに一線を越えます。仲間たちと禁断の地へと踏み込んだブルー一行は、そこでついに世界の真実を見つけた、と思い込みますが、それもまた……。
本格的な終末SFですが、「世界の真実」を覆い隠す幾重もの欺瞞、そして真実の一端を断片的に伝え誤解へと誘導する経典類、最後の最後まで繰り返される「常識の大転換」……と、非常に「濃い」内容ですね。圧巻は、殿堂の黒幕に異常に気に入られ戸惑うブルーの秘密。
この小説を読んでいて、ふと「新世紀エヴァンゲリオン」を思い出したりして(^^;。
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太陽の刃、海の夢―少女大陸 | 定価1200円 |
著・柴田よしき | 祥伝社 |
終末後の未来世界を描くファンタジーです。女性だけが生活する高い技術と奇妙な宗教を持つ地下世界に住む流砂。彼女は、親友の美沙と共に地下世界の秘密に絡む謀略に巻き込まれ、やがて地下世界の存亡をめぐる戦いに立ち会います。
終末を生き延びたごく少数の人々が生活する荒廃した地上世界とのつながりや、超常的能力者の存在とその能力を伝える宗教、地下世界を作った最初の人々の秘密…と読みどころ満載で、一気に読み進めました。 |
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風の谷のナウシカ・コミック版 | 定価2780円 |
著・宮崎 駿 | 徳間書店 |
古典的名作となった同名アニメの原作コミック。「火の七日間」によって滅びた世界で蟲たちと腐海に怯えながら細々と生きる人類が、戦乱をきっかけにまたもや自滅の危機に立たされます。そして、主人公の少女・ナウシカはその危機に関わるうち、いつの間にか世界の中心的存在に。
映画ではナウシカの活躍に焦点が当てられましたが、コミックでは腐海のなぞや戦乱の背景などが前面に出ています。さらに、自然と人間の在り方についても、より根本的な視点から見つめているように感じました。
「持続的な発展」だの「開発と環境のバランス」だのという人間中心の独善を離れ自然としての人間として生きる。火を捨ててそんな生き方を実践する「森の人」の生活が印象に残っています。そして、その森の人たちと共に生きることを拒み生まれつつある「清浄の地」への希望を胸に「黄昏の人類」の元へと帰っていくナウシカ。彼女たちの世界に「清浄の地」への道はあるのでしょうか…。 |
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風の大陸 |
著・竹河聖 | 富士見ファンタジア文庫 |
超古代、自然環境の変化などで滅びに直面しつつある「大陸」。山奥でケイローン(半獣半人の伝説的存在)に育てられ強力な魔力を持つ主人公テイーエは、17歳で山を降りて旅を始めます。
ほとんど「人」を知らなかったティーエですが、仲間たちと出会い、旅を続けるうちに人のさまざまな感情に触れ、時にその感受性と魔力に振り回されることも。
世界の運命を左右するという「世界」の相を持つテイーエは、地方の国王や大帝国の皇帝 、貴族、神官たちの注目の的となり、陰謀や戦いに巻き込まれていきます。さらに、ティーエ自身、世界の相を持つ自らの役割を探し出すように。ティーエの魔術と仲間たちの剣で、襲いかかる敵を倒していくティーエ一行の活躍と、その背後で大陸に迫り来る危機がどうなるのか、じっくりと付き合ってみたい大河ファンタジー。
典型的な「剣と魔法の世界」ですが、政治や文化、精霊、魔術などの世界設定がしっかりしていて読み応え十分です。 |
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小説 ドラゴンクエスト | 定価980円 |
著・高屋敷 英夫 | エニックス |
さまざまな意味で日本のゲーム史に残るであろうRPG「ドラゴンクエスト」を元にした小説。
竜王に苦しめられるアレフガルドで、伝説の勇者の血を引く少年が竜王を倒す旅に出る…、と基本的な流れに沿っていて原作世界との違和感もありませんが、少年を助ける若者などオリジナル要素もあります。ストーリーとしては、「少年が姫君を救いドラゴンを倒して勇者になる」というまさに「ファンタジーの王道」そのものですね。特に、ローラ姫と出会い王女の愛(^^;を得ていく過程が良い感じ。
光に導かれて「太陽の石」と出会う場面や、ガライとの語らいなどファンタジーならではの「神秘体験」もごく自然に取り込まれ、物語の世界に浸ることができます。
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小指の先の天使 | 1680円 |
著・神林長平 | 早川書房 |
仮想世界における「意識」をテーマとしたSF短編集。仮想世界において、(認識された)人格や世界の存在がどんな意味を持つのか、プログラムされた条件付けによる反応と「意識」は本質的に違うものなのか……。「人間の意識と神についての物語が、現実と仮想の間を往還」します。
仮想世界からふと「現実」側に目をやった時の頼りなさというか、「自分の位置」「自分というものを認識する主体」がわからなくなるような独特な感覚が特徴。 |
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ノルンの永い夢 | 1890円 |
著・平谷美樹 | 早川書房 |
時間と歴史の流れ、人々の歴史認識をテーマとしたSFです。時空を「変換」する能力を持ち世界の歴史を修復していく本間鐵太郎と、彼と関わり彼を追う人たちの物語が幾度も変換され交錯する歴史の中で重層的に展開されます。 |
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